「手紙」東野圭吾 [書庫]
何気なく図書館で手にした本です。
10数年前「変身」を読んだきり東野氏の著作を読む機会がありませんでした。
今回手に取ったこの作品。もちろん予備知識なし。
文庫と違ってあらすじの紹介などもありませんから全く白紙の状態で手に取りました。
あらすじとしてはたった一人の肉親である兄が自分の大学進学のためのお金を手に入れようとやむなく手を染めてしまった犯罪。
それも空き巣のはずが思いがけない展開で強盗殺人にまで発展してしまい、兄本人はすぐに逮捕され刑に服する。
主人公は突然犯罪者の、それも一人暮らしの老女を狙った強盗殺人という凶悪事件の犯人の身内となってしまった当時高校3年生の弟。
そこから彼の苦悩が始まった。
自分のために兄が犯した犯罪。
しかし自分が望んだわけではない。
一人ぼっちで世間に放り出された彼は何度も兄のことで挫折する。
裏切られる。職を失う。恋人を失う。
救いようのない展開だが一人の人物の言葉に彼は2度助けられる。
1度目はその言葉で彼はすべてを受け入れ(兄の存在も罪も)、家庭を持ちほんのわずか幸せと平穏を手に入れる。
だが、世間は容易に犯罪者の家族を忘れてはくれない。
幼いわが子にまで差別が及ぶにあたり彼はまた苦悩する。
同じ人物の2度目の助言により彼はついに兄と決別する決心をした。
自分の妻と子供を守るためだ。
兄は確かに犯罪者になったが、極悪人ではない。
むしろ弟思いでまじめで善良な一市民だった。
そんな人間が犯罪者になるための垣根は人が思うよりもずっと低いのだ。
そして主人公に助言を与える人物も決して彼にとって優しい言葉はかけない。
むしろ言葉だけ聞けば思わずたじろぐほどむごい言葉だ。
だが、その底にある差別というものに対する考え方はとっても理解できた。
もし自分の身内がある日突然犯罪者になってしまったら
もし自分がある日思いがけず犯罪者になってしまったら
家族は関係ないと言い切れるだろうか。
もし、自分やその家族の身辺に強盗殺人犯の身内が現れたら、それまで普通に付き合っていた人物がその身内だとわかったらどうするだろう。
家族は関係ないと胸を張って言えるだろうか。
犯罪者と犯罪被害者だけがクローズアップされるが、加害者の身内の不幸は深く静かに潜行するものなのだ。
そして犯罪者はその罪をも背負わなければ本当の意味での贖罪にはならないのではないかと思う。
山田孝之さん、玉山鉄二さんで映画化されましたね~。
すっごく気になったのですが。
でも、かなり「痛い」らしいので、
精神的な痛みに耐えられない私は観ないし、
読まないだろうな、と思いました…。
by ちろり (2007-11-07 20:56)
ちろり様。
映画化されているのは知りませんでした。
レンタル探してみようかな。
ちなみにそれほど痛い感じはしなかったですよ私は。
むしろ最後はすがすがしかったです。
by izunosuke (2007-11-10 08:19)