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「はみだしっこ」で哲学する。 [書庫]

私が青春時代にこよなく愛した漫画雑誌といえば白泉社「花とゆめ」。
言わずと知れた名作を次から次と生み出した伝説的な雑誌。
今も本自体はあるが内容は……言わずもがな・・・・。

好きな作品上げろと言われたって絞りきれるわけもない。
ただ、この作品だけは、作者が既に鬼籍に入られているので、続編はもとよりラストの解説も望めないとなれば、いろいろ感慨深かったりするのであります。

簡単に言っちゃえば、親を捨てた子供たち(世間的には家出少年)の数年間をいろんな事件や人とのかかわり小さなエピソードなどで綴っていくものです。
グレアム(サーザ・グレアム・ダルトン)
アンジー(リフェール・ステア)
サーニン(トーマス・?)
マックス(マックス・?)
主人公4人ですが、サーニンとマックスの姓が今本が手元にないので不明です。

グレアムは一種狂気じみた天才ピアニストの父とその父を嫌って父の友人と駆け落ちをした母の間の一人息子。
妻が出て行ってからなおさら必要以上のピアノの英才教育を息子に強いる父。
海外演奏の多い父に代わって彼をいつくしんでくれたのは出て行った母の兄夫婦。
が、その伯母に関する哀しい事件が彼を家から遠ざけることに。

アンジーは映画女優を夢見る母のラブチャイルドとして生まれる。
母の姉一家にあずけられたまに訪ねてくる母を待つ日々
そしてそのころ小児麻痺にかかり片足が不自由に。(その後杖がなくても歩けるまでに回復)
そして映画女優として成功した母に名実ともに捨てられ、叔母の家を出る。
その時、本名のリフェールを捨て、かつて母が「わたしのアンジュ(天使)」と呼んだことから自分の名前にした。

サーニンはロシア生まれの祖父とイギリス人の夫の不仲の間に入って精神に異常をきたし、雪の降る中ひたすら雪かきをしながら凍死した母を見て一言も口がきけなくなり、父とその妹(叔母)により地下室に幽閉される。
それを通りすがりのアンジーが見つけ助け出して、一緒に旅に出る。
本名のトーマスはイギリス人の父がつけた名前。
サーニンは彼にとっては曽祖父となるロシア人のおじいさんが付けたがった名前。

マックスは一番ひどい扱いを受けた子です。
彼の母親は彼と夫を捨てて出て行った。
父は自分の愛する女(彼の母親)が出て行ったのは彼のせいだとわが子を攻め立てる。
そしてその後付き合ういろんな女性とうまくいかないのもすべて彼のせいだと・・・。
そんな時唯一彼の慰めであった飼い猫が父親に銃を発砲され、驚いて窓から車道に出て車にひかれて亡くなります。
そして彼は家の前でしゃがみこんでいるところを3人に声をかけられそのまま行動を共にします。
マックスという彼の名は、生まれた時父親が近くの墓地で幼くしてなくなった他人の子供の名前を付けたのです。

記憶が不確かですが、連載開始当初グレアムとアンジーは12歳前後。
サーニンは10歳前後。マックスは9歳前後だったと思います。
今ほど児童虐待や子捨て、子殺しが頻繁に事件になどならなかった時代です。
だからお話として楽しめた。
でも、今この時代になって読み返したら…・怖い!!
30年近く前の作品にも関わらず、リアルです。

そして大人の行動がどれだけ子供に影響を及ぼすのか。
背中がぞくぞくするような感覚を覚えます。
彼らはそれぞれが背負ったトラウマゆえか、かなり大人びている少年たちです。
それでも一番悲惨な幼年期をすごしたはずのマックスが一番明るく、後の3人にとってその明るさが癒しになっているのです。

セリフもかなり難解でかなり哲学的でもある。
心に残るシーンやセリフなんてとてもじゃないがかき切れない。
ただ今でも覚えているセリフは彼ら4人をまとめて養子にしようと申し出る夫婦が現れ、その手続きをするため母に連絡を取ったアンジー。
かなりひどい裏切りに会います。
そしてその夜、自分とサーニンをかたどった指人形でふざけながら最後に言ったセリフ
「おれこうしてせっせと伸ばした髪でママにそっくりになっただろう。おれはママになってもう一度おれを生む直すんだ」
そういったときのアンジーの表情が切なすぎます。


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「輪違屋糸里」 [書庫]

今回初めて浅田次郎さんの作品を読みました。
この方の作品を映像ではたくさん見ているのですが、なぜか原作を読む機会がなかった。
今回の作品も実は先にTVで見て感動したので、図書館で早速借りてきて読んだものです。

輪違屋糸里 上

輪違屋糸里 上

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫


輪違屋糸里 下

輪違屋糸里 下

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: 文庫

TVの方の前編の最初1時間を見逃したので、なぜ音羽太夫が芹沢鴨に無礼討ちになったのかがどうしても知りたくて読んだようなものです。
おかげですっきりしました。

私は今まで土方ファンでした。
新撰組といえば土方。
でも、この作品の中の土方は…好きになれない。
もちろん悪人ではないし、むしろ悲しいくらいまっすぐすぎるのでしょうが・・・。
糸里への仕打ちはやはり女としては認めたくない。

その分やはり糸里の女としての生きざまの見事さは涙涙でした。
ただ、ドラマの中には出てこなかったのですが、原作では最後に糸里の親友の独り言で終わるのですが、その彼女に子供のように泣きじゃくって女の幸せをあきらめた糸里が語られるところでまたも涙を抑えられませんでした。

この作品は女たちの生きざまの見事さが描かれています。
糸里は勿論、お梅、吉栄、お勝、おまさ、音羽太夫。
この女たちに比べると男たちは…。
良くも悪くも子供です。
侍であること。男であることにこだわるばっかりに無用な殺生をしなければならない。

この中で土方は結局糸里をどう思っていたのか、よくわかりませんでした。
作者はやはり男の方だからでしょうか。
糸里に土方がした仕打ち(平間の件。闇討ちへの加担とその口封じをしようとしたこと)はやはり納得ができない。
愛していたならそんなことがよくできたなあと思ってしまいます。
なのに太夫あがりを決めた糸里に「一緒になって百姓をやろう」なんてよく言えるものだと腹が立った。

私の中の土方像とこの作品の中の土方は全くの別物だ。
そしてやはりこれは糸里の物語だ。
女としてこれほど見事な主人公は珍しい。
大夫になった糸里(桜木太夫)が最後に初道中でのセリフ「一橋中納言さんへ。会津中将さんへ。輪違屋桜木太夫、逢状うけたまわりまして、ただいま罷り越しますえ。」が哀しくも凛と響いて泣きそうになりました。


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「永遠の仔」 [書庫]

永遠の仔〈上〉

永遠の仔〈上〉

  • 作者: 天童 荒太
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1999/02
  • メディア: 単行本


永遠の仔〈下〉

永遠の仔〈下〉

  • 作者: 天童 荒太
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 1999/02
  • メディア: 単行本

図書館で何げなく手に取りました。
この作品一時話題になってドラマになったのも知っているのですが、ドラマもみなかったので、内容全く知らず。
それなのになぜか惹かれて読みました。
衝撃です。そして哀しいです。
でも、なぜか救いがあります。
「模倣犯」の時よりも読んだ後が悲しいけど納得できた。

ドラマを見ていなかったせいかこの作品の中の主要人物3人。
ジラフ(キリン)、モウル(もぐら)、ルフィン(イルカ)が自分の勝手なキャスティングで頭に浮かんでいました。
私の頭の中では
ジラフ・・・・椎名桔平
モウル・・・田辺誠一
ルフィン・・・深津絵里    でした。

読み終わってから調べたらジラフはドンピシャでしたね。
モウルは渡部篤郎か~   又一がらみでこの二人がリンクするとはね。
ルフィンの中谷美紀はちょっと意外。明るいイメージあったからね。

この話でも結局大人が大人として機能していないことがすべてのもとのように思えた。
昔って子供の領域、大人の領域って厳然と分かれていたような気がする。
子供には大人の世界が楽しくて自由で魅力的なものに見えた。
そして大人には大人の力量、分別が求められた。
今は大人の世界を真似しながら子供の部分も捨てたくない見た目だけの大人が増えている。

我慢することができない。
やせ我慢という言葉がさも悪いことのように言われる。
でも、そのやせ我慢が大人の粋を生んだりしたのだ。

大人が大人としてちゃんと襟を正している社会にならなければ、子供はいつまでたっても間違った大人像をぬぐい去れないのではないか。
昔にも悪い大人はいた。
でも、やはりそれは特別だったのだ。
社会の自浄作用が薄まっている。
見て見ぬふり、無関心。
そしてうっぷん晴らしの弱い者いじめ。

子供の世界のことは大人の縮図であることを大人が自覚しなければ始まらない。


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「理由」宮部みゆき [書庫]

理由

理由

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞社
  • 発売日: 1998/05
  • メディア: 単行本

宮部みゆきさんの作品としては残念ながら私の中では不完全燃焼の感が残る一冊。
内容が悪いのではなく、やはり臨場感に欠けるといったところか。
高層マンションで一家4人が殺される。
のちにそれは本当の家族ではないことが分かる。
では彼らは誰で、何のために一緒にそこで生活し、どんな理由で殺されたのか。

結論としてすべての事情が分かってから、関係者に当時の話を聞くというスタイルで物語が進行していく。
どんなに悲惨でドラマチックな事件も、時がたち気持ちが落ち着いてから、あの時はああだった、こうだった。多分こんな気持ちだったんだと思う。
話している人にとってはそれが真実なんだろうけど、やはり一度自分の記憶の中、心の中で整理をつけてしまった話はどこか嘘くさくてすっきりとこちらに入ってこない。

確かこの作品ドラマ化もされたし、賞もとってなかったっけ?
宮部作品はどれをとっても質が高いが、中にはこういう落とし穴もある。
でも、これは作品の出来、不出来とは関係なく読み手側の受け取り方次第なんだから、仕方ないか。


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模倣犯(宮部みゆき) [書庫]

模倣犯〈上〉

模倣犯〈上〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


模倣犯〈下〉

模倣犯〈下〉

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本


やっと念願かなって読めた模倣犯。
やはり宮部みゆきはすごい!!
あれだけの長編が長編に感じない。
ただ、読後感は・・・・ちょっと不完全燃焼が残る。

ピースの生い立ちは滋子が解説しているが、ピースの口から親への思いを聞いてみたかった。
最初はヒロミに腹が立っていたのだが、最後はピースにどうしょうもなく腹が立った。

猜疑心が強く、支配欲が強くそしてなまじ頭脳があるとこんな怪物が生まれてしまうのかと恐ろしくもなった。
結局彼は自分の策におぼれた。
そして彼のいう大衆にしっぺ返しを食らった。

有馬老人のセリフにある「お前はしきりに大衆というが、大衆なんてものはそもそもいない。かつての戦争の時も大日本帝国国民なんて言われたが、苦しむのも、死んでいくのも一人の人間なんだ。大勢の国民でも大衆でもない。おまえはそこをまちがえた。」という言葉が重く、でも爽やかに響いてくる。

この世に完全犯罪はない。
それを再認識させる作品である。


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「後巷説百物語」 [書庫]

後巷説百物語

後巷説百物語

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫


とうとう完結してしまった百物語。
又市が、百介が、おぎんが遠い世界に行ってしまった。
なんだか現実の友人をなくしたような寂しさだ。
出版の順に呼んでいたらきっと「前巷説百物語」で救われたのだろうな。
でも天邪鬼の私はこちらを一番最後にしてしまった。

又市のし掛けた妖怪仕掛けが後の世で京極堂シリーズとリンクしているのに感慨を覚える。
「鉄鼠の檻」しかり、「狂骨の夢」しかり、「オンモラギの瑕」しかり。
「嗤う伊右衛門」「覗き小平治」にもこの又市が多少絡んでいるらしいがどちらも未読なのでノーコメント。

このお話の中に出て来る「小夜」という娘。
これがおぎんの孫であるなら、彼女は確かに存在した。
それなら又市は?
いろいろな場面での又市の言動を考えると、彼は生涯天涯孤独だったと思う。
仲間はいても家族はもたなかったと思われる。

それでも私は夢見てしまう。
おぎんの娘「りん」の父親が又市でその娘「小夜」がのちの「京極堂」つまり中禅寺秋彦の先祖であってほしいと・・・。


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「前巷説百物語」 [書庫]

前々から読みたかった本をやっと手にしました。
京極夏彦著「前巷説百物語」。
百物語としては4冊目。
そして時代は一番古い。
双六売りで小股潜りの又市が何ゆえ御行になったかが語られる。

まだ若く青臭くて、見ようによっては小生意気な若造であった又市が色々な事件に首を突っ込むうちに、もともとの正義感(本人はそうは思ってないが)によって運命のように御行となる。

「世に不思議なし 世すべて不思議なり」又市の決め台詞だが、これには他の意味がある。
世に不思議なし・・・・ではあるけれど  世すべて不思議なり・・・で収めるしかない。
これこそが妖怪からくりのすべてである。
所詮は人がやっていることなのだが、信実が大事なのではなく人が何を信じるかが大事なのだ。
神も仏も、鬼も妖怪もすべて人が信じればこそ存在する。
そこに姿が見えるから、触れるから、声が聞こえるから存在するわけではない。

このシリーズの中で大きなウエイトを占めるのが「稲荷坂の祗右衛門」である。
「続巷説百物語」の中で語られている話の始まりが今回語られている。
今回の話が先に語られていたら、十中八九消化不良を起こしていただろう。
なぜなら大仕掛けの挙句肝心の黒幕は一向にわからず顔も名前も出てこない。
先に事の顛末を知って読んでいるから安心して詠めた。

そしてこの中で知り合う「御燈の小右衛門」とその養女「おぎん」。
後の「死神」に繋がっていく。
又市シリ-ズのファンにとってははずせない一冊である。

今まだ手元にはないが、「後巷説百物語」がますます楽しみになってきた。
今手元に届くのを待っているところだ。

前巷説百物語

前巷説百物語

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本


後巷説百物語

後巷説百物語

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫


続巷説百物語

続巷説百物語

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/02/24
  • メディア: 文庫


巷説百物語

巷説百物語

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2003/06
  • メディア: 文庫


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「シュガーベイビー」 [書庫]

シュガーベビー(1)

シュガーベビー(1)

  • 作者: 高野 まさこ
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2000
  • メディア: 新書


昔白泉社から出ていた月刊誌「花とゆめ」
この雑誌自体は今も健在だが、たまに懐かしくて本屋でぺらぺらとするとあまりの雰囲気の違いに愕然とする。
時代が違うから仕方がないが、当時の執筆人の豪華だったことがいまさらながら驚かされる

アクションあり推理ものありコメディ、シリアス恋愛もの一冊の本にこれだけ多彩なジャンルの本ってあったかな?
その中でも毎月のお楽しみは高野まさ子先生の「シュガーベビー」だった。
クリスマスの日キリスト様のために作られた女の子の形のケーキに酔っ払ったチビ天使のシホンがキス。
命を与えられてしまったケーキで出来た女の子はそのまま地上に一直線。
かわいい赤ちゃんをと願っていた詩人のパパさんとその奥様のママさんのところへ。
驚きながらもその子をわが子として育てることにしたご夫婦。
そして神様から罰として犬に変えられて地上に送られた天使シホン。
シュガーが泣きすぎて溶けてしまわないために守るのがお役目。
「ホットドッグ」という名前をシュガーから送られたシホン。不本意ながらこの役目をする羽目のなるのだが・・・。
長い連載の中にいくつもの感動がありました。
基本的にはキリスト教の教えに近いかな?
でも、押し付けがましくなく、エピソードが暖かいのです~っと心に入ってくる。

登場人物も人間あり、妖精あり、魔法使いあり、神様に大天使、チビ天使。
ファンタジーであるけれど夢物語と言うよりは人生のバイブルのような感じ。
季節が変わる時も天使が絵を描いて次の季節の神様に届けると翌日から季節が変わる。
ちなみに春と冬は女神。秋と夏は男神。
この中で冬の女神様のエピソードが一番好き。
厳しいだけではない冬の強い愛がわかる。

この作品の中のエピソードのいくつかは実際に友人の結婚式のスピーチで使って大反響。
なかなか私の株を上げてくれました。
以来しばらくスピーチ依頼が多かったです。

もし、お祝いのスピーチに困っている方がいたら読んでみるといいかも。
愛だけではなく、友情や信頼なんかをテーマにしているエピソードも数多い。
老若男女を問わず読んで貰いたい作品です。


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絡新婦の理(じょろうぐものことわり) [書庫]

文庫版 絡新婦の理

文庫版 絡新婦の理

  • 作者: 京極 夏彦
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 文庫


本日やっと読了。
相変わらずの長編だが京極ファンにとってはこれははなからわかっていることなので驚くには値しない。
ただ、今回は  死に過ぎる。
目潰し魔に絞殺魔。少女売春に黒ミサ。娼婦殺しにある一族の血の崩壊。

人の死の数では今までの作品ははるかに及ばない。
そしてあまりに悲しすぎる。
死ななくてもいい人たちが死にすぎる。

死んでいい人なんかいるのかといわれたらしばし考えるが、この中で死んでも悲しくない人も出てくる。
それ以上にできるなら死なせたくなかったというより死ぬ必要がなかった人たちまで死んでいく。
今回ほど京極堂の憑き物落しが後手に廻った印象はない。

母系社会と父権社会。
どういう違いかはなんとなくわかっていたが今回の作品のテーマはここにある。
といっても私が思っていたよりもはるかに重い複雑なテーマだったのだけれど・・・。
結局は身勝手な人たちの思い込みは何代にもわたって受け継がれていくたびに、変質し異形のものにならざるを得ないということなのか。

冒頭と最後に出てくる京極堂の言葉
「あなたが蜘蛛だったのですね」
最初と最後では同じ台詞なのに、まったく違うように聞こえるのはなぜだろう。
同じ相手に言っているのに事件の全容を知る前と知った後でこんなにも台詞の意味さえ変わって感じるあたりはさすがである。


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そこにいるだけで 風のメッセージ [書庫]

そこにいるだけで―風のメッセージ

そこにいるだけで―風のメッセージ

  • 作者: 宮島 崇, 才桃 あつこ
  • 出版社/メーカー: 新風舎
  • 発売日: 2006/08
  • メディア: 単行本


不思議なご縁で手にした本。
小学校中学年からの対象なので、文体も優しく読みやすい。
そしてテーマは「命」

今、いじめ自殺が全国に蔓延している昨今。
きっとどの親もわが子を心配しているだろう。
いじめられてはいないか。つらい思いをしていないか。
もちろんそれも大事だが、もうひとつ考えてほしい。わが子が誰かをいじめてはいないか?
いじめの仲間から抜けられなくて苦しんではいないか?

被害者と加害者。
それはいつでも逆転してしまうのが今の時代のいじめだからだ。
私自身小学時代いじめられっこだった。
もうはるか昔だが、今でも当時の夢を見ることがある。

この本の中で主人公はついに死を決意するが、その前に親を悲しませたくない。親を苦しめたくないという気持ちがひしひしと伝わってくる。
だからこそいじめられていることを告白も相談もできずに追い込まれていく。
主人公は子供だからそれだけで精一杯なってしまうのだが、私はやはり親の立場で読んでしまう。

わが子がいじめられひどい言葉で傷つけられ自殺にまで追い込まれているのに気づいてあげられなかった。
そんな状況になったら親の哀しみ苦しみは計り知れない。
だからこそこれはやはり子供たちに読んでほしい。
そしてSOSを出してほしい。
必ず全力で守るから。

この世に生まれてくるすべての命。かけがえのないもの。
その数と同じだけこの世に生まれてこれなかった命がたくさんあることを知ってほしい。
だからこそ命は尊くかけがえのないもの。
そして大人も何度も何度もそれを言葉、態度すべてで子供たちに伝えていかなければならない。

かつてある人気学園ドラマの中で中学教師の主人公はこう言った。
「子供たちは未熟だから間違うんです。間違えたら何度でも大人がそれは間違いだと教えてやる
それが教育なんだ」
これは親や周りの大人たちすべてにもいえると思う。
面倒がらず、きちんと相手と向かい合う。
そして何度でも子供たちに自分は愛されるに値する命だということ。そして自分の命と同じように人の命もいとおしみなさいと・・・。

この作品で作者のすばらしいところは、主人公がただいじめられっ子に言い返したり、逆に強く反撃するような強さではなく、自分の考えをしっかり相手に伝え、なおかついじめっ子たちの命も又かけがえのないものだと気づくところだ。
たぶん主人公に命の尊さを教えるのが実在の人物だったらこうはいかなかったと思う。
なぜなら生きているとどうしても嫌いな人、苦手な人は出てくる。
そういう人のことまで大事に思いましょうと口にしていったり、言われたりしてもどうしてもそこにいくばくかの偽善を感じてしまうから。

この作品に出会えて幸せです。
そして子供に読ませてあげるのが今から楽しみです。
そして今まだ幼い心のうちから命の大切さ、愛すべき存在であることをしっかりとその心に根付かせてあげたいです。


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